「谷重 義行」建築家が語る、住まいづくりの視点
場所に存在する目に見えない価値を引き出す
時間の経過とともに価値が増す空間をつくる
基本的な話から始めると、住宅建築は施主・敷地・時代の3つのアイデンティティに対してどのようなアプローチをするかによって違いが出ると考えています。その中でも私は、敷地に価値ある何かを見つけて引き出し、施主の個性と結びつけることが私の役割だと思っています。施主が気づかない些細な環境であっても、設計にとっては実はすごく重要だったりします。
また、住宅には、建築と呼べるものと呼べないものがあります。建物の存在価値が継続する時間が短い店舗的なものは、建築とは言えません。長い期間に耐え、時間とともにその空間の価値が増していくものが建築と呼べるものではないでしょうか。新築であろうと改築であろうと、私はそういう空間の在り方を大事にして設計したいと考えています。
住宅は特定の家族とともに生きていく建物ですが、たとえ住む人が変わったとしても、その家を見つけた人が「住みたい」と共感できるような家をつくりたいと思っています。
何年か経ったら改装しようと思われる家ではなく、代え難い何か、変えない方が良いと思われる何かを設計で遺したいと強く思います。そのためにも、施主・敷地・時代の状況を空間として一体的に洞察し、建築として新しいプランや形態、素材に表現する必要があると考えています。
新築の場合は、住宅が立地する場所の周辺環境にヒントがあります。東西南北の方位は、春夏秋冬の風向き、地面の高低などもそのひとつです。改築という制約された条件においても、面白いものは何か必ず発見できます。その住宅を見て、残った空地にどんな庭を設けるか、陽の射しこむ向きはどうか、この壁を窓に替えたら何があるかなど、現地を見てイメージを膨らませてヒントを探ります。そして、出来上がった住宅に住む家族がその家での暮らしを大事に思ってもらえるように、家づくりを通していろいろな考え方を提案したいと考えています。
YOSHIYUKI TANISHIGE 谷重 義行
谷重義行建築像景/代表・一級建築士
広島県出身。東京の設計事務所を経て、国立石川工業高等専門学校建築学科やケニア共和国の農工大学建築学科にて講師を務めた経歴を持つ。1996年建築像景研究室を設立し、設計活動開始。2001年より『谷重義行建築像景』を主宰する。2020年には、手がけた2軒の店舗で同時に【第42回金沢都市美文化賞】を受賞。その他、受賞多数。工学修士。宅地建物取引士。NPO法人茅葺き文化研究会 専務理事。
谷重義行建築像景
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