住まいの提案、石川。

「谷重 義行」建築家が語る、住まいづくりの視点

「谷重 義行」建築家が語る、住まいづくりの視点

場所に存在する目に見えない価値を引き出す

時間の経過とともに価値が増す空間をつくる

基本的な話から始めると、住宅建築は施主・敷地・時代の3つのアイデンティティに対してどのようなアプローチをするかによって違いが出ると考えています。その中でも私は、敷地に価値ある何かを見つけて引き出し、施主の個性と結びつけることが私の役割だと思っています。施主が気づかない些細な環境であっても、設計にとっては実はすごく重要だったりします。

200坪の敷地に新築した平屋建ての住宅。時間をかけて公園のような環境をつくり、住宅街区の角地にうるおいをもたらす。軒の深い 大きな屋根によって長期間の耐久性を維持している。杉板、大谷石、ヒバの建具枠など、時間と共に風合いの出る素材を選択した。

また、住宅には、建築と呼べるものと呼べないものがあります。建物の存在価値が継続する時間が短い店舗的なものは、建築とは言えません。長い期間に耐え、時間とともにその空間の価値が増していくものが建築と呼べるものではないでしょうか。新築であろうと改築であろうと、私はそういう空間の在り方を大事にして設計したいと考えています。

住宅は特定の家族とともに生きていく建物ですが、たとえ住む人が変わったとしても、その家を見つけた人が「住みたい」と共感できるような家をつくりたいと思っています。

明治初期に建てられた1棟を残し、昭和期に建てられた2棟を解体して新たに平屋を増築した「東山の家III」。 駐車2台のスペースと2つの庭も確保した。新旧をつなぐ中央の円筒状の空間はキッチンになっている。

何年か経ったら改装しようと思われる家ではなく、代え難い何か、変えない方が良いと思われる何かを設計で遺したいと強く思います。そのためにも、施主・敷地・時代の状況を空間として一体的に洞察し、建築として新しいプランや形態、素材に表現する必要があると考えています。

新築の場合は、住宅が立地する場所の周辺環境にヒントがあります。東西南北の方位は、春夏秋冬の風向き、地面の高低などもそのひとつです。改築という制約された条件においても、面白いものは何か必ず発見できます。その住宅を見て、残った空地にどんな庭を設けるか、陽の射しこむ向きはどうか、この壁を窓に替えたら何があるかなど、現地を見てイメージを膨らませてヒントを探ります。そして、出来上がった住宅に住む家族がその家での暮らしを大事に思ってもらえるように、家づくりを通していろいろな考え方を提案したいと考えています。

杉の列柱がリビングとキッチンを程よく隔て、 心地よい家族の距離感をつくっている。

YOSHIYUKI TANISHIGE 谷重 義行

谷重義行建築像景/代表・一級建築士

広島県出身。東京の設計事務所を経て、国立石川工業高等専門学校建築学科やケニア共和国の農工大学建築学科にて講師を務めた経歴を持つ。1996年建築像景研究室を設立し、設計活動開始。2001年より『谷重義行建築像景』を主宰する。2020年には、手がけた2軒の店舗で同時に【第42回金沢都市美文化賞】を受賞。その他、受賞多数。工学修士。宅地建物取引士。NPO法人茅葺き文化研究会 専務理事。

谷重義行建築像景
〒921-8034 金沢市泉野町4-22-15 tel 076-280-1456
https://www.archi-tao.jp

VOL.11 住まいの提案、石川。 ¥300

VOL.10 住まいの提案、石川。 ¥300

VOL.9 住まいの提案、石川。 ¥300

VOL.8 住まいの提案、石川。 ¥300

VOL.7 住まいの提案、石川。 ¥300

住まいの提案、石川。特集記事一覧 特集記事一覧

癒やしの借景窓 〜外と中をつなぐ閉じない建築〜

癒やしの借景窓 〜外と中をつなぐ閉じない建築〜

どんな立地の住まいでも窓から望むことができる美しい景観が必ずある。郊外であれば緑が溢れる自然の風景住宅地であっても青い空と白い雲が見える。窓を緻密にデザインし外から中へと流れるよう...
食と空間 File.5-1 「Angolo CAFFE」

食と空間 File.5-1 「Angolo CAFFE」

金沢駅東口から徒歩10分ほど。ノスタルジックな雰囲気が魅力的な金沢市笠市町に佇むのは一つの町屋を改装したカフェ、創作イタリアンレストラン、ホテル、花屋が併設された複合施設。 築13...
食と空間 File.5-2 「ORIGO」

食と空間 File.5-2 「ORIGO」

金沢駅東口から徒歩10分ほど。ノスタルジックな雰囲気が魅力的な金沢市笠市町に佇むのは一つの町屋を改装したカフェ、創作イタリアンレストラン、ホテル、花屋が併設された複合施設。 築13...
この街で、心地いい暮らし – かほく市 vol.05号 特集記事

この街で、心地いい暮らし – かほく市 vol.05号 特集記事

「どの町に家を建てるか」は「どんな家を建てるか」と同じように、人生を左右する重要な選択です。石川県内の市町をクローズアップし、その魅力や暮らしやすさについてご紹介します。8年連続で人口が増加し、2022年には小学生の増加数が石川県内最多となるなど、”伸びざかりのまち“として注目されるかほく市。なぜ、子育て世代に選ばれているのか、その魅力について市の移住定住担当者に聞きました。
たもたれる家-心地よく過ごせる家とはどんな家だろう-

たもたれる家-心地よく過ごせる家とはどんな家だろう-

家のどこにいても、気持ちのよい温度に保たれている家もそのひとつ。10年、20年と住み継がれても、丈夫に保たれている家もそのひとつ。日々の暮らしのなかで家族の安らぎと笑顔が保たれる家もそのひとつ。住み心地のよい家に求められる性能はいろいろあるけれど、家をよい状態で長く保ったり、どこにいても適温が保たれるために必要な性能について考えてみたい。
Side Story Speciality 01 世界にひとつしかない、オーダー家具という選択

Side Story Speciality 01 世界にひとつしかない、オーダー家具という選択

オーダー家具の価値は、ディテールにまでこだわったデザインとジャストな使い心地が叶えられることです。例えば、「自分仕様の収納がある仕事場がほしい」「ホテルライクなパウダールームにしたい」といった夢があれば、ライフスタイルやデザインの好みに合わせて、ストレスがないサイズや引き出しの位置、扉の閉まる速度までオーダーメイドできます。
食と空間 File.4 「モノクロ CHAYA」

食と空間 File.4 「モノクロ CHAYA」

金沢駅から徒歩5分。昔ながらのノスタルジックな街並みが残る金沢市笠市町にある新感覚カフェ『モノクロ CHAYA』。 木目の暖かさを感じるシンプルな外観。暖簾をくぐり一歩店内に足を踏み入れると…異空間!白と黒の世界はまるで漫画の中に入り込んだような気分を味わえる。
この街で、心地いい暮らし – 白山市 vol.4号特集記事

この街で、心地いい暮らし – 白山市 vol.4号特集記事

「住みよさランキング」(東洋経済新報社調べ)では上位の常連であり、2022年版では5位にランクインした白山市。子育て世代にも選ばれているその魅力について市の移住定住担当者に聞きました。白山市の魅力を一言で表現するなら、「多様な魅力がある市」です。県内で最も面積が広く、海あり、山ありの自然に囲まれ、地域ごとに独自の文化が感じられます。
「戸井 建一郎」建築家が語る、住まいづくりの視点

「戸井 建一郎」建築家が語る、住まいづくりの視点

石川県小松市出身。金沢工業大学を卒業後、東京の設計事務所などを経て、1996年石川県にてTOI設計事務所を創業、2004年『株式会社トイットデザイン』として法人化。数多くの住宅や、商業空間、医療施設などの設計・監理を手がけている。
「谷重 義行」建築家が語る、住まいづくりの視点

「谷重 義行」建築家が語る、住まいづくりの視点

広島県出身。東京の設計事務所を経て、国立石川工業高等専門学校建築学科やケニア共和国の農工大学建築学科にて講師を務めた経歴を持つ。1996年建築像景研究室を設立し、設計活動開始。2001年より『谷重義行建築像景』を主宰
「永井 菜緒」建築家が語る、住まいづくりの視点

「永井 菜緒」建築家が語る、住まいづくりの視点

石川県小松市出身。愛知工業大学卒業後、東京の店舗設計施工会社などを経て、2014年、石川県にて一級建築士事務所SWAY DESIGNを開設。2018年株式会社SWAY DESIGNとして法人化。不動産の有効活用を提案する不動産事業をはじめる。
「小松 雄二」建築家が語る、住まいづくりの視点

「小松 雄二」建築家が語る、住まいづくりの視点

福井県出身。金沢工業大学を卒業後、ゼネコンや大手住宅会社などでの勤務を経て、1992年、石川県金沢市に一級建築士事務所 『でざいん こま』 を開設。日曜大工など物作りが大好きで、家づくりにおいても造作家具や造作建具など細部に活かされている。