家づくりにおいて窓の配置は暮らしの質を左右する大切な要素である。採光、通風、換気といった機能的な側面だけでなく、窓から差し込む光が作り出す柔らかな陰影や窓の外に見える自然の景色は、何気ない毎日をより豊かなものにしてくれる。
造園家のMさんの住まいづくりの条件は、薪ストーブのある平屋の家。古くからある住宅地に見つけたその土地は、北側と東側が道路に面し、南側からの採光が難しい約坪の敷地。この条件で、施主が望む以上のプランをかなえたのが樋爪住宅研究所である。Mさんと樋爪住宅研究所はもともと仕事を通じてつながりがあり、以前から同社がつくる家や家づくりの考え方に共感しての依頼だった。
実は、家づくりが始まる前からすでにオリーブの木を購入していたMさん。樹齢100年を超えるというだけあって圧倒的な存在感を放つオリーブは、Mさんがスペインから直接買い付けたもの。そのオリーブを敷地の中央に据える中庭のある家のプランは予想外の展開で、プロの発想力と提案力を実感したそうだ。
中庭を設けたことで日当たりの問題が解消したばかりでなく、外からの視線を遮りながらも自然が身近に感じられる暮らしが実現した。家族の成長を見守るかのように家の中心でどっしりと根を張るオリーブの周りでは、思い思いにのんびりとした時間を楽しまれている。
家づくりを始める時、考えるべきことは無数にある。理想を挙げ出すとキリがないが、現実には敷地や予算といった条件がつきまとう。その限られた条件の中でも施主の理想や予想をはるかに超えて、そこに暮らす家族みんなの期待が膨らむ家を提案する発想力とバランス感覚こそプロの実力というものかもしれない。
最初から細部にこだわり過ぎず、プロが描くプランを待ってみる。大きな希望だけを伝えて、プロの考えに委ねてみる。家づくりのプロセスでは、そんな風に住まい手がつくり手を信頼してこそ叶うプランがあり、経験値の豊富なプロだからこそ見せてくれる新しい世界があるのではないだろうか。
ここで紹介したMさんも樋爪住宅研究所を信頼して任せ、できあがってくるプランを楽しみに待っていた一人だ。「中庭のおかげで家の中がいつも明るく、子どもがどこに居ても目が届く快適な家になりました。細かい提案、的確な意見、気遣いなど、大手ではできない良さを実感することができました」とMさん。
植物を愛する造園家のMさんのイメージに沿うような自然と調和する空間構成、難しい敷地条件を軽やかに飛び越えて住宅街の一角に別世界を創り出す発想力。それらは、住む人との何気ない会話や丁寧なヒアリングの積み重ねがあってこそ成立するものではないだろうか。